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喧嘩は一人じゃ出来ない!?

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。
 実際の時間では5秒も立ってなかったと思う。
 しかし、私の体感時間は1時間ぐらいに思えた。
 私の下にいる彼も同じ事を考えているみたい。
 顔を見れば分かる。真っ赤になった頬と完全に泳いでいる目。
 彼は単純なのだ。
 では、私はどうなのだろう?
 たぶん、同じ。ドキドキが収まらない。
 心臓と言うものは不随意筋。自分の力でどうなるものではない。
 そんな事は分かってる。私はこれでも理系は大の得意で、特に生物が得意だから。
 心臓がまるで走り終わったランナー並のスピードで鼓動を打つ。
 当たり前なのかもしれない。
 だって、私は産まれて初めて男の人とキスをしたのだから―――




 私の名前は華飾 命(はなかざり みこと)と言う。
 とても可愛らしい名前とは裏腹に、私の格好は白衣に眼鏡、完全に伸びっぱなしの髪の毛。これでは男など近寄るわけもない。私は別にそれで良いと思っていたし、男なんぞ必要も無いと考えていた。
 私は、県立“月嶋(つきしま)研究学園都市”内にある理系高等大学一貫学校に通う生徒だったから。
 私の父と母は有名大学に通う大学教授だった。
 昔、ある病原体のワクチンを発見した事で今や、理系学科の者で知らぬ者は居ない時の人となった。私は小さい頃から周りの人に、父と母が成し遂げた偉業を教え込まれ、大勢の人が言った。
 『お前も必ず何かの偉業を成し遂げろ』と。
 私自身、昔から教え込まれた両親の偉業に対し対抗心を燃やし、一般的な『女の子』としての人生を歩む気なんぞ、はなっからなかった。
だから私は中学を卒業後、両親が教授を行なっている“月嶋研究学園都市”に自分の席を置こうとした。事実、私は今年の入学生の中でトップ10入りを果たしたし、自分でも大満足の結果だったと思った。
さすがは、日本一とも言われる研究学園都市で、今まで見たことも無いような機械設備や薬品などがあり、私を大いに興奮させた。



 そんな中、私は“彼”と出会った。
 入学してから約2ヶ月、桜は先月中に完全に散り、今は夏に向けての葉の準備へかかっている頃、5月にはいる私が入っているクラスでは選択科目を選ぶ事になり、私は勿論“生物”を選んだ。
 選択科目は多くても20人ぐらいしかおらず、専門的なことをやるので私は興奮していないと言えば嘘になるかもしれなかった。
 しかし、私は自分でも思った以上に知識があった様で、いくら専門高校とは言え教えられるものにも限度があるし、私が知りたい様なものは大学へ行かないと分からないものだけだった。
 それでは実質、選択教科で習う物なんかない。
 そこで教授は、「じゃぁ、“落ちこぼれ君”の相手をしてくれないか?」と言った。
 “落ちこぼれ君”?
 私は初め、教授が言った事が良く分からず、頭上にハテナマークがプカプカと泳いでいた。
 しかし、私は始めて彼に出会った時にこの意味が良く分かった。良くこの学校に合格できたな。と思わせるくらいの、言ってしまえば“馬鹿”だったのだから。
 たしかに、初対面の人にそんな感情を抱くなんて失礼かもしれないが、そう思ってしまったのだからしょうがない。
 その日から、私と彼の奮闘が始まった。



 「な、何でそんな事も分からないの!?」
 「しょ、しょうがないじゃないか!! そんなに怒らないでよ!!」
 回りの教室までに轟きそうな爆音。
 私は始め彼とは馬が合わなかった。
 私は選ばれた者、彼は落ちこぼれ。
 私自身がそうやって、彼との境界線を作っていたから。
 しかし、人間という者は不思議な者で、時間が立つに連れて段々とであるが、彼との喧騒も少なくなっていった。
 だが、彼とであって半年たった11月始め。
 久しぶりに彼と大喧嘩した。
 「どうしてさっきやった公式を忘れてるの!?」
 「しょうがないだろ! 僕は君と違って頭の創りが悪いんだ!!」
 「そうやって言い訳して逃げる気!? ハッン、どうせ変な事でも考えてたんでしょ!!」
 「僕は逃げる気もないし、変な事も考えてない!!」
 「どうだかね。そうせ半年前あった時から私に変な事でも想像してたんでしょ!!」
 「そ、そんな事は考えてない!! だ、大体君は女の子らしくないじゃないか!!」
 「え?」
 「いつも外見を気にしない性格、実際、服装はいつも白衣だし、髪の毛は伸びっぱなしで手入れをしてない。それに無骨な男用眼鏡。いつも男子生徒から君はなんていわれてるか知っているかい? “腐ったりんご”さ。女の子としてはりんごの様に良いのに、そんなんだから“腐ってる”なんて言われてるんだ!! ………って、あれ?」
 彼は一気にボルテージがアップし終わって、私を見てビックリしていた。
 当たり前といえば当たり前なんかもしれない。
 私は泣いていたのだから。
 私はその時の記憶は全然無かった。
 彼から“女の子らしくない”といわれた瞬間、頭が真っ白になって、自然と涙がこぼれていたのだから。
 私の意識が完全に覚醒したのはしばらく立ってからだった。
 彼が私のことを一生懸命ゆすっていた。
 そして、今度は彼が泣いていた。
 「ごめんよ……言い過ぎた…泣くとは思わなかったんだ……。君はいつも仏頂面で…こんなこと言っても
大して事無いと……僕は思っていた……。ご…め……うぅ」
 私は動けなくなった。私も彼も無理をしていたのだろう。
 言いたいことも言えずに、半年間つもりに積もって、爆発した。
 でも、もう大丈夫だろう。これからは無理をしていかなければ良いのだ。
 「もう…大丈夫だよ」
 私は彼に言った。
 彼は顔を起こす。彼は男としては可愛い系の顔立ちをしていて、私は泣いている顔がとても可愛らしく思えた。
 そしてそのまま私は彼にキスをした。
 私は何故この様な事をしたのか覚えていない。
 彼は何が起こったのか理解していない。
 彼の力がなくなり、私は彼に掛けている力を抜こうとしたが、失敗。
そのまま倒れてしまった。
 


 はたから見ていると、私が彼を押し倒したような構図になってしまった。
 そのまま5秒間。
 そして、
 「っぷ、あはははははは」と彼が笑い始めた。
 「あ、あははは」
 私も笑いがこみ上げてきた。
 「あははははははは」
 「あははははははは」
 しばらく、多分10分くらい笑い続けていたと思う。
 私達が一通り笑った後、彼が言った。
 「ごめんよ命さん。許してくれるかい?」
 「良いわよ。そのかわり――」
 「うん。分かってる。僕は君に愛を誓うよ」
 そう言った彼の顔はまた笑いが出てきている。
 多分これで感情を爆発させる事もなくなるだろう。
 今まで男は必要ないと思ってたけど――
 『一人じゃ喧嘩できないもんね!!』
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